今週のお題「バレンタインデー」
今週のお題はバレンタインかぁ・・・ もう全然若くないオバサンとしては、ちょっと困るお題だなぁ・・・ 過去のことは忘れてしまったしなぁ。封印したというか・・・
とかなんとか堂々巡りをしていた時、ふっとある人物を思い出しました。
仮に、ミックという名前にしましょう。何年か前、とある学校現場で働いていた時の、ALT(外国語指導助手)の先生です。スコットランド出身の男性で、日本語はごく少ししか通じないのですが、「みんなと話したい!」というオーラがすごく出ている人でした。満面の笑みで手ぶり身振り、私たちが日本語でしゃべっていても、会話に入ろうと身を乗り出してくれました。なので、なんとか私も話しかけたいと思うのですが、私、英語はさっぱりで。ミックとはお昼になると、同じ部屋で給食を食べることがよくあったのですが、とりあえずお天気の話題をと思っても、「今日はいいお天気ですね」ならともかく、「なんだか曇ってきちゃいましたね」とかになるともう無理。いつも晴れているわけでもないし。
でも不思議ですね。こっちは英単語交じりの日本語、ミックは英語とボディランゲージなのに、意外と会話(会話っていうのかわからないけど)が成立するんですねー。
ミックが一番話してくれたのは故郷のこと。食事時だったこともあって、故郷のお料理が、よく話題になりました。特に、クリスマスに作るお料理については、本当に嬉しそうに詳しく教えてくれました。でもね、ミックの言うクリスマスのお料理って、「パイ」や「チョコレートソース」や「アイスクリーム」ばっかり。「それってスイーツだよね? おかず的なものはないのかな?」とも思ったんですが、自慢するときのミックのキラキラした眼を見ていると、こっちも嬉しくなって、十分だなと思いました。うっとりしながら、ゆっくり愛おしそうに「Christmas cake」と発音するのだもの。ミックは、甘いものが大好きだったんですね。
さて、クリスマスが過ぎ、ミックとのボディランゲージコミュケーションも上達し、バレンタインのシーズンになりました。甘いもの好きでイベントも大好きなミックは、「もうすぐ、Valentine's Day デスネ」とその日を待ち焦がれ、何だかそわそわと落ち着かない様子でした。
当日、私が部屋で一人で仕事をしていますと、陽気な鼻歌が遠くから聞こえてきました。やがてガラリとドアが開いて、”HAPPY VALENTINE!”と言いながら、ミックが差し出してくれたのは、チョコレートの包み。「えっっ、ありがとう」と声をかける間もなく風のように去って行ったのは、みんなにチョコレートをプレゼントしてくれるために、大忙しだったから。ミックは、この計画にとてもわくわくしていたようです。
ミックがこの日を楽しみにしていた理由は、もう一つありました。それは、この日の給食の献立にあった「チョコレートケーキ」です。「Chocolate cake」と、彼はこれまた愛おしそうに発音していました。「明日はChocolate cakeデスネ」と。
いよいよお昼になりました。チョコレートケーキ、思ったより大きくて、なかなかいい感じです(笑)。お盆にのせて、いただきましょう。
「ん?」(私)
「・・・・・」(ミック)
ミックがすごく微妙な顔をしました。次の瞬間、とてもとても悲しそうに首を振りました。”No. Chocolate cake." 日本語で絞り出すように、「甘くない。」 そしてまた”No.Chocolate cake."
給食のチョコレートケーキは、豆乳仕立てのココア風味、甘さ控えめの超ヘルシーなケーキだったのです。ミックに言わせると、ケーキではない。(甘くないから) ちなみに日本人の私でも、「さすがにもうちょっと甘くてもいいんじゃないの?」というくらいのお味でした。
いつも陽気なだけに、あのものすごく残念そうな表情がちょっと気の毒で、でもちょっと可笑しかった(ゴメンナサイ)ワンシーンです。
給食ですからね、そんなに甘くできないし、でも「バレンタインデーだからね」という栄養士さんの愛情スイーツ。日本の給食文化ということでご理解を・・・ と説明できればよかったんですけれど、拙い英単語交じりの日本語では、到底無理でした。
ミックは、イングランドに帰国したと風の便りで聞きました。今年のバレンタインは故郷でがっつり、甘いチョコレートケーキを食べてくださいね。
ミックへ。ハッピーバレンタイン(^^♪