休日の過ごし方は、街道ウォークと、気ままな読書。
今回は、本屋大賞を受賞した『かがみの孤城』(辻村深月/著 ポプラ社)についてです。
読書ブログって難しいですね。ついついネタバレしそうになっちゃう。ネタバレしないように書こうとすると、手が止まる。
本屋大賞受賞作ということで早速読んでみました。辻村さんの作品といえば『ツナグ』が印象深いです。あれはオムニバス形式で読みやすかったです。それでいて一つの世界が完結していてよかったですね。それに比べるとこれは、なかなか作品世界に入り込めなくて・・・
この本の主人公は「安西こころ」ちゃん。中学1年生の女の子です。クラスの女子から理不尽な仕打ちを受けて深く傷つき、入学してひと月もしないうちに不登校になってしまいました。ある日、お母さんが仕事に行っていて昼間一人で家にいるとき、こころは自分の部屋の姿見が虹色に光っているのに気がつきました。鏡に手を触れてみると、ふしぎふしぎ、からだごと鏡の向こう側に吸い込まれてしまいます!
顔を上げると、そこはお城の中でした。そして目の前にピアノの発表会にでも着ていくようなフリルのドレスを着て、なぜか狼のお面をつけた小さな女の子。
女の子が言います。「安西こころさん。あなたは、めでたくこの城のゲストに招かれました!」
鏡の向こうに吸い込まれるというのがまず無理。よくありそうな設定だけど、いきなりSFっぽくなってもついていけません。
吸い込まれた先がお城というのもよくわからない。なんでお城? タイムスリップとかならまだわかるけど。そしてもっとわからないのが狼のお面の女の子。なんか、ハチャメチャじゃないですか? いったいどういう世界なの?
お城にはこころと同じようにして鏡を通ってやってきた中学生がいました。
イケメンの男の子
ポニーテールのしっかり者の女の子
眼鏡をかけたちょっと暗そうな女の子
ゲームにはまっている生意気そうな男の子
ハリーポッターのロンみたいな物静かな男の子
小太りで気が弱そうな男の子
こころを入れて7人の中学生です。7人の共通点は、たぶん学校に行っていないということ。
狼のお面の女の子は、自分のことを「オオカミさま」と呼べと命令します。小さな女の子の声をしているのに、話し方といい雰囲気と言い、こわい。まさにオオカミ。
「オオカミさま」が言うに、今日から3月30日まで、この城に自由に出入りしていい。城の中には「願いの部屋」のカギが隠されている。カギを見つけた人は、どんな願いでもかなえられる。願いがかなえられたら、その時点で解散。城に来ることはできなくなる。
城が開いているのは日本時間の9時から17時まで。17時を1分でも過ぎたら、狼に食われる。
このような説明をうけて、「こころ」たちは城で毎日を過ごすようになるのです。
この設定にどうもついていけなくて。一つ一つが脈絡がなくてめちゃくちゃだから。
でも、三分の二を過ぎたあたりから、俄然面白くなってきたんです。7人のメンバーが自分のことを話しお互いのことがわかり合ってくると、脈絡がなく見えた設定の一つ一つに意味があるらしいことがぼんやりながら見えてきて、パズルのピースが合わさってくる。そうなると読むのも早くなりますね。一気に読んでしまいました。
一気に読んだ後、もう一度ところどころ読み返して確認したりもして、すっかり夜更かしをしてしまいました。お城も、狼のお面も、一つ一つきちんと意味があって、細かい設定があるんです。最後はすっきり。
分厚いしページ数多いし、「なんだかなあ、これがなんで本屋大賞?」と最初は思っていたけれど、やっぱり本屋大賞ですね。ごめんなさい。書店員の皆さん、よく発掘しましたね。
最後まで読んで、エンターテイメント性は高いけどテーマ性に薄いかなとも思ったんですが、テーマはありますね、やっぱり。
この城に集まった7人は、5月に出会ったのに、自分のことを話すのが苦手でなかなかお互いに踏み込めないんです。最後の最後にすべての謎が解けるのですが、自分のことをきちんと話していれば、もっと早くわかったのに。
7人は、それぞれ自分の現実世界を持っているけれど、お互いの通ってくる鏡を通じて、お互いの世界を行き来することはできません。城へのそれぞれのアクセスのみ。だから、自分の現実のことについて、話さなくてもいいし嘘をついてもわからない。城では現実世界での問題を考えなくていい。現実では学校に行けていなくても、友だちがいなくても、ここでなら普通の顔をしてつきあえる・・・と思ったらここでも人間関係の悩みはそれなりに生じたりするのです。
城って、SNSにおけるバーチャルの世界みたいだなあと、ちょっと思いました。そして、城はいつまでもあるわけではない。城での時間が無駄だというわけではないけれど、やっぱり人は現実に帰るもの。現実は、避けて通れない。
こんなテーマがうっすらと浮かぶのですが。
けれど、テーマなんて別にどうでもいいのかもしれませんね。面白ければ。やっぱり、書店員さん、よく発掘したなあと思います! 面白い本を教えてくださって、ありがとう。
ネタバレは申し訳ないので、ここまで。
読んでくださってありがとうございました。また訪ねてくださると嬉しいです。