てくてくわくわく 街道ウォーク

週末の東海道てくてく歩きのブログです!

弥次さん喜多さんを追いかけて 保土ケ谷

 今日も『東海道中膝栗毛』(岩波文庫版)を読み進みます。「ガッツリ古文」と構えていたけど、意外に大丈夫。脚注が丁寧についているから、古語辞典なしでもわかりますよ。よかった。あんまり難しかったら、江戸の庶民に人気が出たりしないですもんね。さすがベストセラー、と納得してしまいました。

 では、物語の中へ。

 

 神奈川の台の景の海が見える眺めの良い茶屋で、店で働く可愛い娘をからかいながら一休みするつもりが、まずい料理が出てきて一杯食わされてしまった弥次さん・喜多さん、茶屋を後にする道すがら、今度は村の子どもをからかいますが、逆にまたまた騙されて、お餅をたくさん買ってやる羽目に。それでも「ま、いいか」と歩いているうちに、保土ケ谷宿に入りました。

 程ヶ谷宿は、昔は、程ヶ谷・新町・帷子の三宿でしたが、慶長2年に一つの駅になりました。

 ちなみに、神奈川宿についての説明はこちらをご覧ください。

 

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  弥次さん・喜多さんが三宿のうちのひとつ、帷子町をまで来ますと、そこは旅籠や茶店が軒を連ねていました。十返舎一九さんの筆も、宿場らしい賑わいを描き、読んでいて楽しいです。引用してみましょう。

両側より旅雀の餌鳥に出しておく留おんなの顔は、さながら面をかぶりたるがごとく、真白にぬりたて、いづれも井の字がすりの紺の前垂を〆たるは、扨こそいにしへ、ここは帷子の宿といひたる所となん聞へし

 留女とは、宿の表に出てお客さんを引き留める女の人です。お面のように真っ白な厚化粧のちょっとあやしげな女の人の「お泊りなさいませ」との誘いに、それぞれの人たちの受け答えがそれぞれに面白いです。

 

 旅人を乗せた馬を引く男の人(馬子)は、「馬子どん、お泊りかな」という留女の誘いに、「だんなをむさし屋へお泊りだが、お前の顔を見たら、こいつ(馬)が泊まりたがるじゃねえか。じゃあな。どうどう。」と軽く流して行ってしまいます。さすが馬子はかわすのに慣れていますね。留女もひやかしだったんでしょう。大して気にしてせず、次にやってきた旅人をターゲットに。「もし、お泊りかえ」 旅人が「こら、そんなにひっぱったら手がもげるじゃないか」というと、留女は「手がもげてもよいので、お泊りなさいませ」。なんか、めげないですね。旅人が「ばかいえ。手がなかったら飯が食えないじゃないか」と言うと、留女は「ご飯をお召し上がりにならないならば、お泊めするのに、かえって手間が省けてようございます」と、いやいやなかなかしつこいですねえ。旅人は口ではかなわぬと、手を振り払って立ち去るのですが、留女はすぐさま次に通りかかった旅の僧に「お泊りかえ」と声をかける図太さです。しかし、旅の僧はあっさりひとこと、「いや、もう少し先に行くので」と。これは旅の僧に軍配が上がりますね。

 その次に通りかかった、田舎者は「安い旅籠に泊まるから」と断るのですが、留女は旅籠は二百文もかかるじゃないかと。すると田舎者は「いやいやそんなに金を出すつもりはない。そのかわり風呂のお湯はぬるくて構わないし、飯も大していらない。そのかわり、明日の昼飯を柳行李いっぱいに詰めてもらえば何もいらない。旅籠に160文出すつもりだ。」と、よくまあしゃべります。さすがに留女は「そんなら、他にお泊まりなさい」と。

 この屁理屈やらのにぎやかな応酬に、弥次さん・喜多さん、絡みそうなものですがここではなぜか傍観者に徹して、歌を一首残して立ち去りました。留女に圧倒されてしまったのかな?

おとまりはよい程谷ととめ女戸塚前てははなさざりけり

 「とっつかまえて(捕まえて)」と、「戸塚前」をかけています。駄洒落が冴えていますね。

 戸塚は保土ケ谷寄り3年遅れてできた宿場町です。保土ケ谷宿にさしかかるのは、朝早く江戸を発った旅人にとって、宿をとるにはちょっと早めの時間帯で、半端な位置にありました。戸塚宿ならば、ちょっと頑張れば日が暮れるまでに到着できそうです。(そうはいっても9.2㌔もあるんですけどね。)

 程ヶ谷宿の猛プッシュの呼び込み。後からできたライバルの戸塚宿に「客をとられてなるものか」と、意地もあったのかもしれませんね。

 


東海道中膝栗毛岩波書店(文庫版 黄色)より引用しています。

一部、旧漢字に変換できない文字は、新しい字体で表記しています。

 

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