てくてくわくわく 街道ウォーク

晴歩雨読。週末の東海道てくてく歩き&ときどき読書のブログです!

塩田武士『罪の声』

 「晴耕雨読」ならぬ「晴歩雨読」。晴れた日はてくてく歩き、雨の日はのんびり読書。

 週末の街道ウォーク(東海道)をレポートする当ブログですが、事情により「今週のお題」&時々読書のブログになっています(汗)

 今回は「読書」です。

 

塩田武士『罪の声』 講談社

 

 第7回山田風太郎生受賞&「週刊文春」ミステリーベスト10 2016国内部門第1位という触れ込みにつられて読んでみました。

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 うーん・・・どうなんだろう? 面白いと言えば面白いけど。

 

 最近の若者は(なんて言い出したらダメですが)、「グリコ森永事件」を知らないらしい。

 それは1984年、グリコの社長が誘拐されことに始まりました。2億円の身代金が要求されたものの、社長自ら脱出。ほっと胸を撫で下ろしたのもつかの間、今度はスーパーの棚に並ぶ同社の商品に青酸カリを混入したという犯行声明が届きます。ターゲットは森永製菓、ハウス食品、不二家と、次々に代わり、国民の不安はあおりにあおられ、一時期、スーパーの棚からお菓子が消えました。

 「毒を混入されたくなかったら金を払え」ということでしたが、結局のところ犯人が「身代金」を手にしたことは一度もなかったという何とも不可解な、昭和最大の未解決事件です。事件は30年を経過した2014年に時効を迎えました。

 

 最近でこそ、「グリコ森永事件? なにそれ?」という反応が返ってきたりもしますが、あの時代、物心ついていた人ならば、おそらく誰しも強烈な印象と共に記憶に刻まれているのではでしょうか。

 なぜならば、それは後に「劇場型犯罪」と呼ばれるようになった新しいタイプでアプローチする犯罪だったからです。

 「怪人21面相」を名乗る犯人グループによるふざけた口調の声明文が新聞に発表されるたびに、国民は不安に駆られ、でもどこかでこの先どうなるんだろうと興味を覚えたりもし、踊らされていることは犯人たちの思う壺であったことでしょう。「けいさつの、アホども え」などというひらがな&関西弁で始まるとぼけた感じをまとった手紙ですが、実のところ青酸混入という無差別殺人の宣言なのであり、今思えば、犯人の狡さやしたたかさが見え透いているのに、私たちは動揺し冷静さを欠いていました。

 あれはいったい何だったのでしょうか。犯人の目的は何だったのでしょうか。

 

 そこに切り込んだのが、この本です。作者の塩田武士氏は、1979年生まれ。事件当時は5歳ということで、おそらくリアルな記憶はないでしょうが、事件に強い興味を持ち、10年以上構想を温めて、事件について膨大な資料を読み込んで作品に仕上げたとのことです。

 

 「面白いと言えば面白いけど、どうなんだろう?」と書いてしまったのは、私自身がよく知っている事件で、特に目新しい印象を持てなかったからだと思います。「面白くて、読み始めたら止まらなかった」というレビューも多数あります。「グリ森事件」を知らない人が読んだら、確かに斬新で本当に引き込まれ、読む手が止まらないかもしれませんね。私の場合、おおまかな流れは知っているので、「ああ、あれは、そういうことだったのか」と深く納得しながら読みました。そういう意味では面白かったです。

 

 実際にあった事件に取材した作品ですが、オリジナリティは、事件にかかわってしまった子どもに焦点を当てている点です。一連の「グリ森事件」では、脅迫電話に「子どもの声が使われていました。この小説では主人公の男性が、実家の引き出しから、幼いころの自分の声が録音されたカセットテープを発見する場面から始まります。たわいない親子の会話を録音したものかと思ったら、それは忌まわしい事件の恐喝に使われたセリフと同じでした。改めてネットで公開されている当時の音声を聞くと、手元のテープと全く同じ、どちらのまぎれもない幼いころの自分の声。こんなとき、あななたならどうしますか?

 自分は、事件にかかわっていたのだろうか? それが事実なら、世間に知られたらどうなるのか? 大切な自分の家族を守ることはできるのか? そもそもなぜ自分が事件にかかわっていたのかもしれないのか? 両親が犯人と関係があるのか?

 さまざまな思いに押しつぶされながら真相の解明に乗り出す主人公に、好感が持てました。

 

 ページをめくる手が止まらないほど面白いわけではなかったけれど、きわめて斬新というわけでもなかったけれど、改めてあの事件を知ることができ、やはり面白い本だったと思います。

 本の中では真相が解明したことになっていますが、実際のところは謎のままです。巻末に掲載されていた参考資料、私も読んでみたくなりました。

 

 それにしても、いかにも昭和的な事件だと思いました。SNSが発達した現代では、こんな面倒な犯行声明を出すことはないでしょうし、防犯カメラがこれだけあれば、毒物混入犯の足取りを追跡することもできるでしょう。その分、犯罪はもっともっと高度になっていますが。イタチごっこです。

 

 ここまで読んでくださってありがとうございました。ぼちぼちの更新ですが、また訪ねてくださると嬉しいです。