てくてくわくわく 街道ウォーク

晴歩雨読。週末の東海道てくてく歩き&ときどき読書のブログです!

弥次さん喜多さんを追いかけて 戸塚宿

 東海道をてくてく歩きながら、弥次さん・喜多さんの道中もたどっています。

 前回は、保土ケ谷宿での客引きの光景にたじたじになって

おとまりはよい程谷ととめ女戸塚前てははなさざりけり(弥次)

と歌を残してそそくさと通り過ぎた弥次さん・喜多さんは、武蔵と相模の国境にあたる品野坂にさしかかって、もう一首。

玉くしげふたつにわかる國境所かはればしなの坂より

「玉」は美称。「櫛笥(くしげ)」はくしばこ。「ふたつ」にかかる枕詞です。「所かわれば品かわる」のことわざとかけています。上手い歌ですね。

 さて、いよいよ戸塚宿を前にして、弥次さんは喜多さんに、宿の客引き女がうるさいから、ここでは親子のふりをしようと提案します。二人は名コンビとはいえ、歳の差は親子ほどもありますからね。弥次さんが、きちんとした親父さんに見えるかどうかはあやしいところですが、これより喜多さんは弥次さんを「とつさん(とっつぁん)」と呼ぶにわか芝居の道中となるのです。

 ところがいざ戸塚に入ると、この日の晩はどこかの大名がお泊りで、宿という宿が満室・宿泊お断り。ほとほと疲れ果て、ようやく見つけたのは、宿場町をもう出るかというところの、この日がオープン初日だという宿でした。上がって見ればなかなかこぎれいな宿で、宿の女中さんに迎えられ「お風呂をどうぞ、お食事をどうぞ」などと言われればほっとしたのか、「女中の顔は、真ん中がへこんだ石みたいだ」などとこっそり軽口をたたいたりして、すっかりいつもの調子に戻ってしまった弥次さん・喜多さんです。「女はもういやだ。親子のふりをしてやりすごそう。」と相談していたのにね。

 二人の「ああでもない、こうでもない」が面白いので、これより先、原文を現代文に直して紹介します。(完全に原文に忠実な訳ではありません。)

 

 女中が盃を持ってくると

弥次「おや、酒か。江戸の人間だとわかると、気前がいいと勘違いして、すぐ酒を持って来るんだから、閉口するね。」

喜多「なぜ酒を持って来るのかい? 別料金なのかい?」

弥次さんは「そりゃそうだろうよ」と言いながらてぬぐいを取ってお風呂に行ってしまいます。女中さんはお銚子一式をお盆に乗せて運んできて

「おひとつお召し上がりください。」

喜多「これはごちそうだ。親父にも早く上がれと言っておくれ」

女「はい、そう申し上げます」と出ていきます。弥次さんはお風呂からあがって

弥次「ははーん、なんだこりゃ。おい、お前、早く風呂に入ってこい。」

喜多「いや、飲んでからにするわ。」

弥次「おまえも意地きたないね。入ってきな。」

というわけで喜多さんもお風呂に行くのですが、宿の主人が出てきて

「なにもございませんが、ひとつ召し上がってください。」

弥次「いや、ご主人、これでは迷惑だ。」

主人「いえいえ、わけを申しますと、私共、これまで他の商売をしていたのですが、このたび旅籠屋になりまして、今日が店開きの日です。おふたりは初めてのお客様ですから、お祝いということでひとつ差し上げているのですから、お酒の別料金をいただきたいわけではございません。ご心配なさらず召し上がってください。」

弥次「それはめでたい。しかし、ごちそうになるなんて申し訳ない。」

主人「いえいえ、ご遠慮なく。まもなくお吸い物もお持ちします。」

弥次「いやもうおかまいなく。」

主人「どうぞごゆっくりなさってください。」と言って出て行ったのと入れ違いに、喜多さんがお風呂から出てきて

「聞いたぞ聞いたぞ。ただとはありがてえ。」

弥次「かっこつけてねえで、もういっぺん風呂に入って来いよ。その間におれが全部、飲んじまうぞ。」

喜多「そんなこったろうと思って、風呂に入っていても、体を洗う間も気が気じゃねえ。足なんかぁ、まだ泥だらけだぜ。かまうもんか、さあさあ、始めようぜ。」

弥次「もうとっくに始めてらあ。どれ、初めから仕切り直すか?」

喜多「いや、、おれはこれでいい。」と茶碗についでいきなりぐっと飲みほし、「ああ、いい酒だ。ところで肴は・・・おっ、白板の蒲鉾だぞ。こりゃ上等だ。鮫の蒲鉾なんかじゃねえし。生姜の梅酢漬けに車海老もあるぜ。やぼじゃねえ。こら、とっつぁんよ、この紫蘇の実の塩漬けが、こりゃあ大そううめえ。おまえはこればっか食ってろ。」

弥次「ばかいえ。そりゃ、後まで残るに決まってるだろうが。ところで、そろそろ、吸い物が来そうなもんだが。」

喜多「まあ待て。」と襖の間から厨房の方をのぞき「来るぞ来るぞ。今よそっていらぁ。なんだよ、神棚に供えるのか? いやいや来るぞ来るぞ!」と居住まいを正していると、やがて女中がお吸い物を持ってきて、

女「お銚子を替えましょう」と持っていきます。二人ともすぐにお吸い物のお椀のふたを取って、

喜多「ほう、赤味噌とはしゃれてるね。まさか、安物のそら豆の味噌じゃなかろう。ところで、銚子はどうなった?」

弥次「落ち着かねえやっちゃな。たった今、持って行ったわ。」

喜多「もう来るだろうな!」

女中が銚子を持ってくると、二人とも呑兵衛だから、「ほれ飲め」「おまえも、もっと飲めや」とやっているうちに、だんだん酔っぱらってきて、親子のふりもむちゃくちゃに。

喜多「ねえさんよぉ、ちいっと、酒の相手をしておくれ。」

女「私は、お酒は弱くて飲めません。」

喜多「まあまあ、そんなこというな。今夜はおまえとおれが夫婦になる約束をする酒にしようじゃないか。なぁ、おとっつぁん。」

弥次「せがれは、酔っぱらっておるから。」

喜多「なんだと、酔っぱらっただと! よく言うわ、親父め! ハハハハハ・・・」とろれつが回らない喜多さんです。女はびっくりしながらつがれた酒を飲みほして、弥次さんの方へ寄ると、

喜多「ちくしょう、親父め。調子にのりやがって。おい、女中、こっちへ来い。」としなだれかかるので、女中はあきれて逃げて行きました。

弥次「こら、おまえ。なんて悪い男だ。女の前で、あんなこと言うな。」

喜多「なんで言っちゃ悪いかよ? 悪かねえよ。おれは、あの太った女が、おかしな目つきでじろじろ見るから、もう、親子のふりなんか、やってられなくなったのさ。」

そうこうしているうちに食事も出てきて、なんやかんやとありましたが、長くなるので省略します。なまじ、親子だなどと最初に挨拶してしまったものだから、女中たちが真に受けて、いくら誘いかけても取り合ってもらえず、女っ気もなく寂しく寝床に着きました。夜が更けて、厨房も静かになって、おかみさんが小言をいう声が気になって、ろくろく眠れず、寝間着は垢だらけだし、シラミのおかげで体中かゆいし、隙間風もピューピューうるさくて、ほろ酔い気分もさめてしまい、今思い返せば、一人寂しく寝るはめになったのは、飯盛り女に嫌われたからなのでした。親子のふりをして、金銭面では得をしたというのがおかしくて、

一筋に親子とおもふおんなより只二すじの銭まうけせり

と口ずさんでうつらうつらしていると、箱枕にあたる耳の付け根が痛くなって、そのうち夜明けの鐘が鳴って、早々と表で助郷の馬が「ヒヒィン ヒイィン」といななき「ブウゥ ブウゥ」とおならもして、長持ちの人足が

「♪竹に雀は品よくとまる♪ ハイハイ、それでどうしたどうした」などと歌う声も聞こえてきて、すっかり目が覚めてしまったのでありました。

 

 親子のふりをした弥次さん・喜多さん、二人ともいい加減なひとたちですが、「ふり」とはいえ、弥次が一応分別臭いことを言うのがおかしいです。喜多さんは、やっぱり若者。酔っぱらってめちゃめちゃ(笑)

 『東海道中膝栗毛』、現代文に直してみましたが、原文もさほど難しくなく、そのまま読むと、江戸っぽい言葉遣いが直に伝わってきて、楽しいですよ。

 

テキスト:『東海道中膝栗毛』(麻生磯次・校注 岩波書店

 

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